「小倉城 竹あかり」の竹灯籠をリサイクル 竹を原料にした国内初のお香「小倉竹の香」を販売

魚町銀天街と竹あかり

魚町銀天街の老舗神仏具店「野上神仏具店」から、合馬の竹を原材料に使ったお香「小倉竹の香」が2023年4月から販売されます。

毎年秋に開催されるイベント「小倉城 竹あかり」で使用した竹灯籠をリサイクルし、3年という月日を経てようやく完成したという「小倉竹の香」について、その生みの親である野上神仏具店の専務取締役・野上哲平さんにお話を伺いました。

僕にしかできないことはなんだろう?

そもそも「竹でお香が作れないか?」というこの企画の始まりは、2019年にスタートしたイベント「小倉城 竹あかり」に協力してほしいと声がかかったことだといいます。

「小倉城を3万個の竹灯籠で彩るこのイベントは、小倉の秋の風物詩としてまちに賑わい呼ぶだけでなく、放置竹林といった『竹害』問題をポジティブな『竹財』として活用しようという素晴らしいコンセプトがあって。まちの活性化や観光としての側面だけでなく、自然環境やSDGsにも通じるすごいイベントだと思っていました」と野上さん。

2022年の小倉城竹あかりの様子

「魚町銀天街としてもイベントに協力していますが、僕としては本業である『野上神仏具店』らしい方法で力になれないかと考えました。仏具店という幹から枝葉を伸ばすように、その軸だけはブレないように竹を活用したい。ただそのこだわりが強いが故に、のちに難しい問題にも直面するのですが…」

色々と考えた末に辿り着いたのが、野上さん自身も好きだという「お香」でした。

「これなら店としての独自性もあります。それに、竹の香りのお香はあっても、竹そのものを素材に使ったお香はこれまでなかったんです」

イベントで使った竹灯籠はチップにして土壌改良剤にするなどリユースされていましたが、すべての灯籠をリサイクルできるわけではありませんでした。

「新たな使い道として竹をお香にリサイクルできれば、自然環境問題やSDGsの解決方法にもなりますし、なにより『小倉城 竹あかり』の竹灯籠をみんなの手元に届く形にできるというのがいいなと思いました」

竹害だった竹をイベントとして楽しみ、それをお香として家に持ち帰って香りを楽しむ。

「この循環を五感で感じることはまさにSDGsを実感することだとも思ったんです」

イベント後に竹灯籠をひとつひとつ回収していく

竹のお香づくりは思わぬ困難の連続

「お線香屋さんに『竹を砕いてお線香にしたい』と相談すると、『竹は無理。細かくしてもパラパラになるから』と、いきなり難色を示されました。竹そのものは繊維が硬すぎて、炭化させないと加工が難しく、かなり難しい技術が必要だったんです。今まで竹のお香が存在しなかった理由はそこでした。

いろいろと当たるなかで、1軒だけ『面白そうだからやってみよう』という工場に行き当たりましたが、それでもやはり最初はうまくいきませんでしたね。かなり細かい粉末レベルまでできれば可能性はあるけど、その工場の関係先でも竹を粉末状にできるところは見つかりませんでした。

それでも諦めず尋ねまわって、たまたま地元北九州に竹を粉末化できるところが1社だけ見つかり、そこから一気にお香づくりが動きだしました」

可能かどうかすらわからないところから、ようやく竹のお香づくりの道が開けた瞬間でした。

竹を細かく粉砕するには特別な機会と技術が必要だった

「とはいえ、この後も失敗談はたくさんあるんです」と野上さんは笑います。

「竹粉末の粒子が大きすぎるとそこから崩れてくるんですよ。最初はまったく成形ができなくてボロボロと崩れてしまって。竹をできるだけたくさん配合したいけど、粉末自体もばらつきがあるし、つなぎを増やしすぎると竹本来の香りの邪魔をする。そのちょうどいいバランスを見つけるのにはとても苦労しました」

粉状の微細な粉末を特殊な機械で練り上げ
練り出した減量を棒状に押しだして成形していく生付け(なまつけ)という工程

多くのお香は杉粉(杉の葉の粉末)や椨皮粉(たぶこ/クスノキ科の木の樹皮を粉にしたもの)を基材やつなぎとして作られているのだそう。

「竹炭をお香にしたものや、竹ひごに杉粉を練ったものを塗った竹芯香(いわゆる中国線香)はあっても、竹そのものを使ったお香はこれまでにはなかった。製品化して販売するところまで辿り着けたのは業界としても初めてです」と野上さんは胸を張ります。

まるで竹林の中に佇んでいるかのような香り

干し板に隙間なく並べ、ゆっくりと乾燥させていく

竹をお香として成形する見通しが立つと、次は香りです。自ら香り袋の調合もする野上さんの竹らしい香り探しが始まりました。

「竹って、ちょっと青臭いような独特な香りがしますよね。そのみずみずしさや清々しさを出したいけど、粉末状にすると途端に香りが弱くなってしまうんです。さまざまな香料を調合しながら100種類ぐらいのサンプルを作りました。最後に残った3つの候補の中から、ようやく納得のいく香りができあがりました。例えるなら、竹林の中にいるような、清々しい香りです」

さわさわと竹の葉が風に揺れる中に佇んでいるような竹の香のやさしい香りは、リラックス効果も抜群。お仏壇へのお供えだけでなく、お部屋のフレグランスとして焚くのにもぴったりです。

北九州を代表するようなお土産に

成形加工に1年、香りづくりに1年を費やし、最後に取り組んだのは容器製造。とことん竹にこだわる野上さんは、竹筒にお香を入れたいと考えました。

「最初は竹筒にお香を入ればいいと簡単に考えていましたが、容器の竹の水分でお香が湿気てグニョグニョに…。竹筒を使うのはムリかも、と一時は諦めかけましたが、しっかり竹筒を乾燥させニスを塗って加工すればいいと教えてもらい、それからさらに1年かけて何度も試作を重ねました」と野上さん。

お香の長さに合わせて竹をカットし
竹筒の内側と外側にニスを塗る。すべて野上さんの手作業

最終的にできあがった容器には、竹林整備で切り出され、これまでは焼却処分されていた真竹を再利用することに。これもまたSDGsに貢献していると言えます。

自ら竹をカットし、ニス塗りまで行っているという野上さんは、「商店街の店主はやっぱり職人なんですよ」と笑います。

今後は商店街の中で市民にも竹筒の加工を体験してもらう工房をつくるべく、準備を進めています。

「この取り組みで北九州の竹の価値をつなげたい。そして僕のやったことが商店街の成功例になることで、後に続く人が新しいことを始めるきっかけになりたい。だから竹の香をつくり販売するというこのチャレンジは、リスクではなく可能性だということを見せたいと思いっています」

魚町銀天街は、日本で初めて公道にアーケードをかけ、また、いち早くSDGsに取り組むなど、元々先進的な気質を持つ商店街です。野上さんはさらに新しい方向に進めるようなレールを敷き、新しい商品をブランド化することで、商店街の存続や、さらには小倉の街の進化につなげていきたいと考えているそうです。

小倉竹の香

「北九州で生まれた『竹の香』が、北九州の魅力を伝えるもののひとつとして地元で認知され、その背景と共に全国に広がっていくことを目指しています」

小倉を代表する大きなイベントから派生し、リサイクルやSDGsという循環を五感で体感できることを目指した「小倉 竹の香」はこれからも進化を続けていくと言います。

創業大正8年の老舗神仏具店を担う、野上さんの挑戦はこれからもつづいていきます。

取材/文 岩井紀子